第90回(2017年度)アカデミー賞、主要6部門の受賞結果

第90回アカデミー賞授賞式は、2017年の映画を対象とし、2018年3月4日(現地時間)にアメリカで開催されました。

前年の「作品賞発表ミス事件」や、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラに端を発した「Me Too」運動に揺れた映画業界。この年の授賞式はそれらに対する意思表明が色濃く表れました。

Embed from Getty Images

助演女優賞:アリソン・ジャネイ

受賞 アリソン・ジャネイ 『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』
ノミネート メアリー・J. ブライジ 『マッドバウンド 哀しき友情』
ノミネート レスリー・マンヴィル 『ファントム・スレッド』
ノミネート ローリー・メトカーフ 『レディ・バード』
ノミネート オクタヴィア・スペンサー 『シェイプ・オブ・ウォーター』
Embed from Getty Images

プレゼンターは、前年に助演男優賞を獲得した、マハーシャラ・アリ。

受賞したアリソン・ジャネイは、今回が初のノミネートで初受賞。

『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』で共演し、娘役を演じたマーゴット・ロビーに笑顔で祝福されてからステージに上がったアリソン、

「私一人で成し遂げたわ」

とオスカー獲得を自画自賛のジョーク。会場の笑いも上々で、気を良くしたアリソンは「冗談はさておき」と続けて、いろんな関係者に感謝の言葉を述べていきます。

最後にアリソンは、

「この賞を弟のハルに捧げます」

と言ってスピーチを締めました。

助演男優賞:サム・ロックウェル

受賞 サム・ロックウェル 『スリー・ビルボード』
ノミネート ウィレム・デフォー 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
ノミネート ウディ・ハレルソン 『スリー・ビルボード』
ノミネート リチャード・ジェンキンス 『シェイプ・オブ・ウォーター』
ノミネート クリストファー・プラマー 『ゲティ家の身代金』
Embed from Getty Images

プレゼンターは、前年に助演女優賞を獲得したヴィオラ・デイヴィス。

受賞した『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェルは、これが初ノミネートで初受賞。同作で共演したフランシス・マクドーマンド、そして同じ助演男優賞にノミネートされていたウディ・ハレルソンとハグを交わしてからステージへ。

受け取ったオスカー像をすぐ床に置いたサムは、慌てて原稿を取り出し、

「ジミー、時間の計測を始めてくれ。ジェットスキーを狙うよ」

と司会のジミー・キンメルにゴーサイン。(このあたりの話は「授賞式ハイライト・名珍場面集」をご覧ください)

「アカデミーに感謝します。僕がこのセリフを言うことになるとは思わなかったよ」

「8歳の時、校長室に呼び出された。行ってみると父がいる。「おばあさんが…」と。急いで車に乗り帰宅すると祖母は無事。どういうことか聞くと「映画に行こう」と。父も母も映画好き。そして僕も映画好きになった」

「フランシス・マクドーマンド、手強かったよ。感謝しています」(フランシス、感激の表情で目がウルウル)

「ウディ・ハレルソン、あなたは素晴らしい。僕のヒーローだ」

「そしてマクドナー監督、あなたの作品にあと10本は出演したい」

「この賞をフィリップ・シーモア・ホフマンに捧げるよ」

主演女優賞:フランシス・マクドーマンド

受賞 フランシス・マクドーマンド 『スリー・ビルボード』
ノミネート サリー・ホーキンス 『シェイプ・オブ・ウォーター』
ノミネート マーゴット・ロビー 『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』
ノミネート シアーシャ・ローナン 『レディ・バード』
ノミネート メリル・ストリープ 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
Embed from Getty Images

プレゼンターは(立ち位置、左から)ジョディ・フォスターとジェニファー・ローレンス。

本来は前年に『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で主演男優賞を獲得したケイシー・アフレックがプレゼンターを務めるはずでしたが、この年に活発だった女性運動の流れで過去のセクハラ問題を告発されたことにより、授賞式への出席を辞退したため、2人の女優が代役として登壇しました。

この年の主演女優賞を受賞したのは『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンド。これが2度目のオスカー受賞で、前回は1996年度に『ファーゴ』で主演女優賞を受賞しています。

受賞発表直後は淡々とした表情でステージへ。松葉杖姿のジョディ・フォスターからオスカー像を受け取る際、その負傷した脚を蹴る素振りを見せ、作品さながらの凶暴な女性を演じてみせています。直後に「違う違う」と首を振ってますけどね。

スピーチの場面で突然緊張感が増したのか、拍手を送る観客を見ながら声を上ずらせて笑い、

「ちょっと過呼吸気味だわ」

と苦笑い。しかし直後に

「言いたいことがあるので倒れそうになったら誰か支えてね」

と言って真顔になり、観客の笑いを誘います。

マーティン・マクドナー監督に感謝を述べた後は、家族にも言葉を述べます。夫のジョエル・コーエンは、フランシスが初めてオスカーを獲得した『ファーゴ』の監督でもあります。息子さんには「私を誇りに思ってね」と母親の顔。

オスカー像を床に置いたフランシスは深呼吸をした後、

「今日ノミネートされた女性の皆さん全員、立ってくれると嬉しいです」

「メリル、あなたが立ってくれればみんな続くわよ」(慌てて席を立つメリルさん)

「(女優だけではなく)制作者、プロデューサー、監督、脚本家、撮影監督、作曲家、デザイナー、女性の皆さん立って!」

そう呼び掛けます。次々と席を立っていく女性たち。それを見ながら興奮して笑うフランシス。『アイ,トーニャ』で険悪な親子を演じたマーゴット・ロビーとアリソン・ジャネイが仲良さそうに肩を寄せ合って笑い合う光景も。

会場の女性達をステージ上から嬉しそうに眺めたフランシスは、こう語り始めました。

「皆さん、周囲を見回してください。資金が必要な企画があったとしても、今夜のパーティーでそれを話すのはダメです。日を改めて事務所でじっくり話しましょう」

「最後にこの言葉で締めます。インクルージョン・ライダー

そう言うと、涼しい顔でフランシスはスピーチを終了。会場からは万雷の拍手が沸き起こりました。

インクルージョン・ライダーという馴染みのない言葉については、授賞式の後に様々な解説がメディアで成されています。簡単に言うと、どうしても映画業界ではマイノリティー(少数派)となっている女性、黒人などの有色人種、そしてLGBTに多様性を与えましょう、という意味だそうです。

俳優は出演交渉を行う際、“Riders”と呼ばれる付帯条項をつけるのが一般的。では“Inclusion Rider”という言葉は、どういう意味なのか。授賞式後の会見で、フランシスは「作品における多様性を求める権利よ。この業界に35年いて、そのことを始めて知ったのよ」と明かした。そして「女性の起用はトレンドじゃないし、アフリカ系の起用もトレンドなんかじゃないの。“Inclusion Rider”はその立役者ね」と続けた。

「ワシントンポスト」紙によると、“Inclusion Rider”は「映画に登場する女性、少数民族、LGBTQコミュニティの人々、障害をもつ人々の割合が、ロケ地の人口構成を反映していること」を条件として要求しているという。つまり、現在のアメリカを舞台にしたドラマを制作する場合、出演者の50%は女性、50%は白人以外の役者、20%は障害を持つ役者、5%はLGBTQコミュニティに属する役者でなければならないということ。また主要キャストに限らず、エキストラや制作スタッフに対しても同じことを求めている。

引用:『フランシス・マクドーマンドがアカデミー賞のスピーチで語った“Inclusion Rider”とは?』(ELLEgirl)

CM明け直後、司会のジミー・キンメルは「先ほどのフランシス・マクドーマンドのスピーチは感動的でしたね。女性が羨ましいです」と絶賛。大役を終えて緊張感から解放されたフランシスは、少女のような表情で嬉しそうに微笑んでいました。

授賞式終了後のアフターパーティーで、フランシス・マクドーマンドのオスカー像が盗難に遭うという事件が発生。フランシスは大きなショックを受けたと報道されていました。

 

なお、犯人は1時間経たずに逮捕され、オスカー像は無事フランシスのもとに戻っています。

主演男優賞:ゲイリー・オールドマン

受賞 ゲイリー・オールドマン 『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
ノミネート ティモシー・シャラメ 『君の名前で僕を呼んで』
ノミネート ダニエル・デイ=ルイス 『ファントム・スレッド』
ノミネート ダニエル・カルーヤ 『ゲット・アウト』
ノミネート デンゼル・ワシントン 『ローマンという名の男 信念の行方』
Embed from Getty Images

プレゼンターは(立ち位置、左から)ジェーン・フォンダと、ヘレン・ミレン。「アカデミー賞も90周年になるのね」「私たちより年上だったなんてね」と軽いジョークを放っていました。

受賞したのは『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で第二次大戦中のイギリス・チャーチル首相を演じたゲイリー・オールドマン。これが2回目のノミネートで、初受賞となりました。

緊張の面持ちでステージに上がったゲイリー。初めて手にするオスカー像を見つめながら声を震わせ、スピーチを始めます。

チャーチル首相を忠実に再現する驚異的なメイクで作品に貢献した辻一弘をはじめとするチームに、「芸術的なメイクをありがとう」とゲイリーは感謝の言葉。

スピーチの最後には、次の誕生日で99歳になる母親にも感謝。

「母はオスカーよりも年上なんだ。愛情とサポートをありがとう」

監督賞:ギレルモ・デル・トロ

受賞 ギレルモ・デル・トロ 『シェイプ・オブ・ウォーター』
ノミネート ポール・トーマス・アンダーソン 『ファントム・スレッド』
ノミネート グレタ・ガーウィグ 『レディ・バード』
ノミネート クリストファー・ノーラン 『ダンケルク』
ノミネート ジョーダン・ピール 『ゲット・アウト』
Embed from Getty Images

プレゼンターは、前年に『ラ・ラ・ランド』で主演女優賞を獲得したエマ・ストーン。「今年は4人の男性、そしてグレタ・ガーウィグがノミネートされました」とスピーチした際には歓声が沸き起こりました。

監督賞にノミネートされた女性監督のグレタ・ガーウィグ。女性の監督賞ノミネートは8年ぶりで、史上5人目となりました。

受賞したのは『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督。これが4回目のノミネートで、悲願の初受賞となりました。

ステージに上がる直前には、『シェイプ・オブ・ウォーター』で主演のサリー・ホーキンスと助演のオクタヴィア・スペンサー、2人の女優から両側の頬にキスされてニッコニコのギレルモ。スタンディングオベーションの観衆を見て緊張と興奮からか、スピーチの冒頭を噛んでしまい「あっはは」と笑ってしまいます。

アメリカのトランプ大統領(当時)が推進し、批判も浴びていた「メキシコとの国境に壁を作る」政策について、ギレルモはスピーチのテーマにしていました。

「わたしはアルフォンソ(・キュアロン監督)や、他の多くの皆さんと同じく、メキシコからの移民です」

「芸術、そして映画業界が偉大なのは、国境を消してくれるからです」

「世界が国境の溝を深くしていく中で、映画業界は消してくれることに感謝しています」

作品賞:『シェイプ・オブ・ウォーター』

受賞 『シェイプ・オブ・ウォーター』
ノミネート 『君の名前で僕を呼んで』
ノミネート 『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
ノミネート 『ダンケルク』
ノミネート 『ゲット・アウト』
ノミネート 『レディ・バード』
ノミネート 『ファントム・スレッド』
ノミネート 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
ノミネート 『スリー・ビルボード』

プレゼンターは、(立ち位置、左から)フェイ・ダナウェイと、ウォーレン・ベイティ。

Embed from Getty Images

前年の第89回授賞式にて、前代未聞の「作品賞発表ミス事件」では被害者でもありながら黒歴史の一部になってしまった名優2人が、前年の汚名を払拭すべく2年連続で作品賞のプレゼンターとして登場しました。

前年の悪夢もあり、ガチガチにド緊張している2人。震える手で受賞作品の書かれた封筒を開けようとするウォーレンと、それを泣きそうな表情で見つめているフェイ。ようやく開いた封筒の中身に記されていた作品賞の名前は『シェイプ・オブ・ウォーター』でした。

ギレルモ監督は主演女優のサリー・ホーキンスをエスコートしながらステージ上へ。助演女優のオクタヴィア・スペンサーや、助演男優のリチャード・ジェンキンス、そしてプロデューサーなど制作陣も後に続きます。

ウォーレンからオスカー像を受け取るよりも早く、ギレルモ監督は「見せてください」とウォーレンに封筒をリクエスト。「いいよ」と言って封筒を手渡すウォーレン。

中身を確認したギレルモ監督は「今年は間違ってなかった!」とばかりに観衆のほうを向いてニカッと笑顔を見せ、ひと笑いを取ります。

Embed from Getty Images

「数週間前、スティーブン・スピルバーグ監督にこんなことを言われました。『受賞すれば、キミはレガシーの一員になれるんだ。そのことを実感し、誇りに思って欲しい』と。今、とてもとても誇らしい気分です」

「この賞を、世界中の若き映画制作者たちに捧げたいと思います」

「やれば出来る。ドアを蹴って中に入ってきてください」

日本関連の受賞・ノミネート

Embed from Getty Images

メイクアップ&ヘアスタイリング賞は、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でメイクアップを担当した日本人の辻一弘が、個人では3度目のノミネートで初めての受賞となりました。

受賞したのは辻氏の他にルーシー・シビックとデヴィッド・マリノフスキー。2人とも今回が初ノミネートで初受賞となりました。代表して辻氏が受賞スピーチを担当。その最初で主演のゲイリー・オールドマンに感謝の言葉を贈っていました。

この受賞時は日本国籍だった辻氏ですが、その後にアメリカ国籍を取得して帰化。第92回(2019年度)アカデミー賞で2度目の受賞を果たした時には「カズ・ヒロ」名義になっています。

この年に樹立された記録など

第90回アカデミー賞では様々な記録が樹立されました。

◆『ゲティ家の身代金』で助演男優賞にノミネートされたクリストファー・プラマーは88歳で、俳優部門のノミネートとしては史上最年長記録を更新しました。なお全部門を対象とした最年長記録は、この年に脚色賞を受賞したジェームズ・アイヴォリーの89歳となっています。

メアリー・J. ブライジは『マッドバウンド 哀しき友情』で助演女優賞にノミネートされ、同作のテーマ曲を歌唱して歌曲賞にもノミネートされました。演技部門と歌曲部門で同時ノミネートされたのはメアリー・J. ブライジが史上初。この翌年(2018年度)にはレディー・ガガが主演女優賞と歌曲賞にノミネートされました。

グレタ・ガーウィグは『レディ・バード』で監督賞にノミネートされました。女性の監督賞ノミネートは史上5人目で、第82回(2009年度)に『ハート・ロッカー』で監督賞を受賞したキャスリン・ビグロー以来、8年ぶりでした。

◆『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』で主演女優賞にノミネートされたメリル・ストリープは、これが21回目となる俳優部門ノミネート。自身の持つ最多ノミネート記録を更新しました。

◆『マッドバウンド 哀しき友情』で撮影監督だったレイチェル・モリソンは撮影賞にノミネートされました。女性が撮影賞にノミネートされたのは史上初です。

◆長編デビューとなった『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督は、作品賞・監督賞・脚本賞の3部門にノミネート。黒人監督の(前述した)3部門同時ノミネートは史上初。また黒人で脚本賞を受賞したのも史上初でした。

第90回(2017年度)アカデミー賞の関連記事

授賞式は笑いあり涙あり
第90回アカデミー賞授賞式
第90回(2017年度)アカデミー賞、授賞式ハイライト・名珍場面集

2年連続の司会となるジミー・キンメルは、授賞式の最中にスター達を引き連れて近くの映画館に出没。またハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ事件に端を発したMeToo運動など女性や人権、そして報酬格差などに言及するスピーチも目立った年でした。

続きを見る

この年の受賞作品がズラリ
第90回(2017年度)アカデミー賞、受賞・ノミネート作品一覧

最多13部門でノミネートされたギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が4部門を受賞。クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が3部門受賞で続きました。『スリー・ビルボード』が主演女優賞と助演男優賞の2冠に輝いています。

続きを見る

アカデミー賞アーカイブ