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司会は2年連続のジミー・キンメル
第90回のアカデミー賞授賞式、司会を務めたのは前年に続き、2年連続でジミー・キンメルとなりました。持ちネタでもある「マット・デイモンいじり」は、マット本人が不在だったこともあり自粛。それでも授賞式の最中に2回、マットの名前を出してバカにしていましたけどね。
まずは前年に発生し、自らも立ち会ってしまった「作品賞発表ミス事件」のネタ。
「受賞された方にお願いです。名前を呼ばれても、すぐには立ち上がらないでください。だって昨年のようなことになると困るじゃないですか」
「これは実話なのですが、昨年の授賞式前に、プロデューサーから『授賞式で会計士とコメディをしてくれないか』と打診があったのです。私は断りました。すると会計士が一人で勝手にやっちゃったんですよね。笑いは取れたけど今年はやりませんよ」
「プライスウォーターハウスクーパース(=事件を起こした会計事務所)の会長がこう述べていました。『今年は正しい封筒を渡すことに全力を尽くす』と。それはその通りなんですけど、じゃあ過去89年間は何に全力を尽くしていたんでしょうか。
「オスカーは今年で90歳。ショービジネス界では様々な賞があります。しかしオスカーはナンバーワン。疑いの余地はありません」
「オスカーはハリウッドで最も愛され、尊敬されている男性なのです。その明白な理由を説明しましょう」
「この像を見てください。手は必ず見える位置にあり、失言も一切しません。そして何よりも大切なのは、股間にアレがないこと」
続いて、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長年にわたるセクハラ・性的暴力行為が告発され、それに端を発した「MeToo」「Time’s Up」のムーブメントについても触れていきます。
「昨年、アカデミーはハーヴェイ・ワインスタインの追放を決定しました。追放候補は他にも大勢いたのですが、彼が最もふさわしかったということです」
ハーヴェイ・ワインスタインは多数の女優や映画関係者に、その地位を利用してセクハラ行為を重ね、アカデミーから追放処分となっただけでなく刑事告発もされ、後に禁固の有罪判決が下されました。
しかしアカデミーの歴史で追放処分となったのは、ワインスタインだけではなかったようです。
「彼の追放が決定したあとで調べてみたところ、アカデミーを追放された人物が過去にもう1人だけいるのが判明しました」
「その人物の名は、俳優のカーマイン・カリディ。2004年に試写映像を共有したことで追放されました」
「あのワインスタインと同じ処分を受けたんですよ。『シービスケット』のVHSをコピーしてお隣りさんに渡したという罪で(会場爆笑)」
続いて、当時のアメリカで大旋風を巻き起こしていたヒット映画『ブラックパンサー』の話しを皮切りに、マイノリティについても語ります。
「『ブラックパンサー』の成功は、今年のポジティブなニュースの1つです。特にポジティブになれたのは、アフリカ系アメリカ人と、ボブ・アイガー(=当時のディズニーCEO)でしょうね」
「『ブラックパンサー』や『ワンダーウーマン』のヒットは画期的なこと。大手の映画会社はこれまで、女性やマイノリティによるヒーロー映画を信じていなかったのです」
「重要なことなのですが、女性監督による映画作品は全体の11パーセントに過ぎないんですよ。ヒドイですよね。女性の地位向上やギャラ向上への道のりは、まだまだ長いのです」
この件に絡ませ、『ゲティ家の身代金』の撮り直しで発覚した「ギャラの男女格差」についてもジミーは斬り込んでいきます。
「マーク・ウォールバーグとミシェル・ウィリアムズの話をしましょう。撮影のやり直しで、マークのギャラは150万ドル、一方で同じシーンなのにミシェルのギャラはたったの80ドルでした」
「特に不公平だったと感じるのは、マークとミシェルは同じエージェンシーに所属していたということなのです。これには私も大変驚きました。だって、もしもエージェントが信用できなかったらどうなります?(会場笑い) 誰を信用するっていうの?」
「その後、マークはギャラの150万ドル全額をTime’s Up運動の支援基金に寄付したと発表しました(会場拍手)」
「次はキミの番だよ、ミシェル。80ドルはどうするんだい?」
ケヴィンは即座に謝罪文を発表したものの、その内容が少々軽薄だったことや、自身のLGBT公表に主眼を置いたような内容だったこともあり猛批判を浴びてしまい、リドリー・スコット監督はケヴィンの降板を発表。(ケヴィンはその後、俳優活動をおこなっていません)
ケヴィンの代役として急きょクリストファー・プラマーがキャスティングされ、劇場公開の1ヶ月前という直前時期に10日間という短いスパンで、ケヴィンに絡んだ全シーンを撮り直すという緊急事態となっていました。マークとミシェルのギャラ格差問題はこの時に発生しています
なお、ケヴィンの代役で重厚な演技を披露したクリストファー・プラマーは、この作品で助演男優賞にノミネートされ、「ご祝儀ノミネート」とも言われていました。
続いて、ノミネートされた様々な映画関係者をイジり始めるジミー。当然ながら毎年のように誰かにイジられているメリル・ストリープも標的になりました。
「おそらく映画史上で最も素晴らしい女優、メリルは今年が通算21回目のノミネートとなります」
「メリルのキャリアは1977年に始まり、アカデミー賞にノミネートされなかった期間として最長なのは、1992年から1995年の間。その頃は刑務所にいたからなんです(注:冗談ですよ)」
最後にジミーは、オスカーを受賞することになる人たちに1つの提案を始めます。
「アカデミー賞授賞式の第1回は、これ本当の話なのですが、最初から最後までが15分間だったのです。それでも人々は文句を言ったんですけどね」
「今夜受賞したら、何を言っても構いません。平和についてでも、待遇についてでも良い。先生や両親にお礼を言ってもいいでしょう。何を言うかはアナタ次第です」
「そうは言っても、授賞式はかなりの長時間になります。そこで私から提案。スピーチを短くしろと強制はしません。でも、最もスピーチが短かった人には、これをプレゼントします」
登場したのは、カワサキの2018年製ジェットスキー、お値段なんと17,999ドル。ジェットスキーのそばでアシスタントのように微笑んでいるのは大女優ヘレン・ミレン。「プレゼントにヘレンは含まれてないよ」とフォローするジミー。
「ここでお母さんにお礼を言うより、ジェットスキーにお母さんを乗せてあげるほうがいいでしょ」
「これはジョークではないです。本当に私がタイムをストップウォッチで計測しますよ」
「もしも同一タイムで並んでしまった場合、ジェットスキーはクリストファー・プラマーに贈呈します」
名前の発音が難しい2人
美術賞のプレゼンターとして登場したのは(立ち位置、左から)ルピタ・ニョンゴと、クメイル・ナンジアニ。
ルピタ:「私たち2人の名前は知っていただけてると思うのですが、どちらも発音に苦労する名前なんです」
クメイル:「僕の名前、『クメイル・ナンジアニ』は芸名なんです。パキスタン語の本名は『クリス・パイン』。だから白人のクリス・パインが登場した時はムカつきました」
ルピタ:「そして私たちはどちらも移民です。私はケニア出身」
クメイル:「僕はパキスタンとアイオワの出身。どちらの場所も映画業界の人は地図で見つけられないんだ」
悪夢を蒸し返すジェダイの騎士
短編アニメ賞のプレゼンターとして登場したのは、『スター・ウォーズ』の出演者たち、(立ち位置、左から)オスカー・アイザック、マーク・ハミル、ケリー・マリー・トラン。ドロイドのBB-8も登場しました。
いよいよ受賞作品の発表。封筒を開けながら、マーク・ハミルが呪文のように繰り返します。
「ラ・ラ・ランドって言うなよ、ラ・ラ・ランドって言うなよ」
短編アニメ賞を受賞したのは『親愛なるバスケットボール』。元NBAのスーパースター、コービー・ブライアントが脚本とナレーションを担当した作品で、グレン・キーン監督と共にコービーもステージへ。
グレン監督がコービーを絶賛した後に続いてマイクの前に立ったコービー。
「バスケットボール選手は黙ってドリブルしてればいいんだろうけど、作品を評価してくれたアカデミー会員の皆さんに感謝します」
コービーはNBA選手として史上初めてオスカーを獲得した人物となりました。
同年2月に開催された第92回アカデミー賞授賞式では、追悼コーナーにコービーの顔写真が登場し、映画関係者として偲ばれていました。
大勢のスターが映画館にサプライズ侵入
アカデミー賞も90周年という節目を迎え、司会のジミー・キンメルは「映画を観てくれて、ありがとうございます」と映画ファンに謝辞。
「もっと感謝の気持ちを表現したい」と続けたジミーは、授賞式会場ドルビー・シアターのすぐ近くにある映画館で大勢の映画ファンが映画鑑賞している様子をスクリーンに映し、ここにサプライズでお礼を言おう(=押しかけよう)と提案。同行者を募り始めます。
「アンセル(・エルゴート)、一緒に行こうよ」
「マーク(・ハミル)、行かないかい? ルーク・スカイウォーカーが来たら喜ぶと思うよ」
「ギレルモ(・デル・トロ)、一緒に行きたい? いろんなカテゴリーでノミネートされてるから忙しいかもしれないけど」
「エミリー・ブラントも行くよ。メリー・ポピンズを生で見てもらえるね、素晴らしい」
「おお、ガル・ガドットに、ルピタ(・ニョンゴ)も。ありがとう」
「アーミー・ハマーも参加してくれるよ! マーゴット・ロビーも! 最高だね」
ジミー・キンメルとガル・ガドットが先陣を切って映画館のステージに登場。それまで静かに映画を観ていた観客はワンダーウーマン登場に大歓声。
「映画を中断してごめんね、実は今、キミたちはアカデミー賞授賞式の生放送に映ってるんだよ」とジミーが観客たちに伝え、スクリーンに授賞式会場の様子が映ります。
「最前列にメリル・ストリープもいるよ」と紹介したジミーは、授賞式会場の人々に促し、映画館の観客に「ありがとう!」とお礼を言ったのでした。
忍耐の時間は終わり(Tims’s Up)
ハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラ・性的暴行問題で、映画界から告発した女性たちが授賞式のステージに登場。写真左から、アシュレイ・ジャッド、アナベラ・シオラ、サルマ・ハエック。
中でもアナベラは、1990年代にワインスタインから性的暴行を受けたことのショックで表舞台から一時期消えていた時期があり、彼女自身の事件は時効となってしまったものの、ワインスタインの裁判に同様の被害者として出廷し、証言をおこなっています。
彼女たちが公にワイスタインの横暴を告発したことにより、映画業界を中心に「#MeToo」や「Time’s Up」のムーブメントが世界中で沸き起こる契機となりました。
アナベラ:「今夜ここに立てて光栄です。今年は真実を語る人が多い年です。今後の道は長くても、徐々に新たな道が見えてきました」
アシュレイ:「今起きている変化の原動力は、新たな力強い声です。私たちの声も含め、様々な声が1つの大きな合唱となり、最後にこう言えたのです。『タイムズ・アップ』と」
サルマ:「そんな気迫を持った方々を称えましょう。ジェンダー、人種、民族性への偏見などを許さず、真実を伝えていきましょう」
照明の魔術で若返る
撮影賞のプレゼンターとして登場したのは、サンドラ・ブロック。登場するなり「うわ、明るいわね」と小声で呟くサンドラ。
「舞台セットも、何もかも本当に素晴らしい。照明もまあいいんだけど、明るすぎるので、ちょっとでいいから照明を落として、私の40歳台を取り戻してくれないかしら。
サンドラの依頼に従い、徐々に暗くなっていくステージ。
「もうちょっと、もうちょっと暗く……、いま39歳ね、もう少し……38歳ね、38歳、よしよし、35歳までいきましょうか、そうしましょう」
「これでガル・ガドットと一緒に登場したら、双子と間違われるんじゃない?」
ドヤ顔になるサンドラ。比較対象にされたガル・ガドットは大笑い。
真面目モードになったサンドラはスピーチを続行。
「次の賞は、照明を使いこなす魔術師たちが対象です。独創的で革新的な演出を駆使する4人の男性、そして女性の先駆者がノミネートされています」
女性として史上初めて撮影賞にノミネートされたレイチェル・モリソン。彼女について言及したサンドラのスピーチに場内は拍手喝采。
受賞したのは『ブレードランナー 2049』のロジャー・ディーキンス。撮影監督の大御所とも言うべき彼は、なんと14回目のノミネートで今回が初受賞となりました。
メリル・ストリープがジョディ・フォスターに暴行?
主演女優賞のプレゼンターとして登場したのは、ジョディ・フォスターと、ジェニファー・ローレンス。
松葉杖をつきながら登場したジョディを心配して声をかけるジェニファー。
ジェニファー:「足、どうしたの?」
ジョディ:「ストリープよ」
そう言って最前列のメリル・ストリープを指差すジョディ。メリルさんを見つめて驚き、絶句するジェニファー。
名指しされたメリルさん、突然のことに笑いながら困惑。それを見ながら真相を告白するジョディ。
ジョディ:「彼女にアイトーニャされたのよ」
ジェニファー:「あっ…(絶句)」
『アイ,トーニャ』の主演女優、マーゴット・ロビーも爆笑。
なおジョディ自身は後日のインタビューで松葉杖姿について、「スキーをしていて負傷した」と真実を明かしています。
「いいの、今は何も言わないでおくわ」と言って、お口にチャックのジェスチャーをするジョディ。そのジョークに乗っかって爆弾発言を放つジェニファー。
ジェニファー:「私も前に1回、(メリルに)やられたことがあるの」
ジョディ:「ここでは何も話さず、黙っておきましょう」
ジェニファー:「裁判で響くってことね」
ジョディ:「そう」
ジェニファー:「(メリルは)昼食会では優しかったのに」
ジョディ:「演技してたのよ」
イジられ続けるメリルさん、苦笑するばかり。
名優コンビのリベンジ、そしてジェットスキーの行方は…
いよいよ授賞式もラスト、作品賞の発表を残すのみ。司会のジミー・キンメルがCM明けに登場し、最後のスピーチを始めます。
「素晴らしい夜もラストスパート、いよいよ最後の賞です。この後、何も起こるはずなどないっ」
前年は最後の最後、作品賞の発表で前代未聞の大ハプニングが発生してしまったので、最後だからといって気は抜けません。
ジミーは最後のプレゼンターを紹介し、呼び入れます。
「紹介します。名作『俺たちに明日はない』の歴史的な51周年記念を祝して、ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイの登場です」
前年に「歴史的な50周年記念」としてプレゼンターを務め、歴史に残る大失敗に巻き込まれてしまったウォーレン&フェイの名優コンビが2年連続の登場となりました。観衆はどよめきと拍手。
マイクの前に立った2人、明らかにガチガチとなりながら硬い表情でスピーチ開始。
ウォーレン:「皆さんに『また』お会いできて嬉しいです」
フェイ:「よく言うじゃない、2回目のほうが楽しいのよ」
ガチガチ状態で封筒を開け、なんとか今年は無事、間違えることもなく『シェイプ・オブ・ウォーター』の名前を読み上げたウォーレン。それまで泣きそうな表情だったフェイも、発表が終わった瞬間に無邪気な少女のように拍手し、笑顔が弾けます。
全ての発表が終わり、再びステージ中央に来た司会のジミー。冒頭で宣言した「最もスピーチ時間の短かった人にジェットスキーをプレゼント」の発表タイム。
『ファントム・スレッド』で衣裳デザイン賞を獲得したマーク・ブリッジスが最短スピーチだったらしく、ジェットスキーに乗った状態でステージに出現。後部座席にはヘレン・ミレンもついてきました。
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