第93回(2020年度)アカデミー賞、主要6部門の受賞結果

第93回アカデミー賞は2020年及び(新型コロナウィルス対策による特例として)2021年2月までの映画を対象とし、授賞式は2021年4月26日(日本時間)に開催され、日本ではWOWOWで生中継されました。

期間限定

新型コロナウィルス対策のため会場がドルビー・シアターからユニオン駅に変更され、世界各国とリモート中継で繋ぎ、歌曲賞のパフォーマンスは事前収録のものを放送。受賞会場の観客席も賞に応じて入れ替えるなど、様々な対策が講じられました。また劇場公開されていないネット配信作品も対象とするなど特例が適用されました。

ノミネートには人種や性別に偏りが極力ないよう多様性に配慮され、監督賞はアジア人としても女性としても史上2人目、また助演女優賞は史上初めてアジア人が受賞しました。

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助演女優賞:ユン・ヨジョン

受賞ユン・ヨジョン 『ミナリ』
ノミネートマリア・バカローヴァ 『続・ボラット』
ノミネートグレン・クローズ 『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』
ノミネートオリヴィア・コールマン 『ファーザー』
ノミネートアマンダ・サイフリッド 『Mank/マンク』
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受賞したのは韓国人女優、ユン・ヨジョン。アジア人がこのカテゴリーを受賞したのは史上初の快挙でした。今回が初ノミネートで初受賞。

プレゼンターを務めたのは、前年に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で助演男優賞を獲得した、ブラッド・ピット。ユンが受賞した作品『ミナリ』のプロデューサーでもあります。

ステージでオスカー像を受け取り、受賞スピーチを始めたユン。まずはブラピにカマします。

「ブラッド・ピットだわ、ようやくお会いできて嬉しいです」

「私たちが撮影をしている間、どこにいらっしゃったの?

プロデューサーのブラピは撮影現場に顔を出さなかった、ってことなんでしょうね。思わぬ暴露にブラピの笑顔が引きつります。まあ俳優業に加えてプロデューサーでも多忙を極めるブラピですから仕方のないことではあります。

続けてユンは、おそらくブラピが受賞者の発表時にユンの名前の発音が少しおかしかったことに対してもツッコミます。

「皆さんご存知とは思いますが、私は韓国人です。名前はユン・ヨジョンなのですが、間違えて私をヨユンとかユンジョンとか呼ぶ人がいます。でも今夜は許してあげるわ」

続いて、アカデミー賞について。

「アカデミー賞はいつもテレビで観ています。私にとっては現実のイベントというより、テレビ番組のような感じ」

「だから、今ここにこうして立っているのが信じられません。少し待ってね、自分を落ち着かせます」

ようやく受賞の実感と感動が去来したんでしょうね。ここでユンは顔を手で覆い、少し深呼吸してからスピーチ継続。『ミナリ』の監督や共演者に感謝の念を述べてから、同じカテゴリーにノミネートされた女優陣へ。

「私は演技を競争だとは思っていません。だって、グレン・クローズに勝てるわけがないもの。彼女の演技を私はずっと観てきたのですから」

「ノミネートの5人はそれぞれの映画の勝者です。作品も役柄も違うのだから、競い合うことはできません」

「私が受賞できたのは、他の4人よりも少しだけラッキーだったというだけ。それにもしかしたら、アメリカの韓国に対する善意ですかね。本当のところは分かりませんが、感謝します」

続いては家族に対して、ちょっと変わった感謝の言葉。

「2人の息子にも感謝しています。私を仕事へと駆り立ててくれました。息子たち、ありがとう。(オスカー像を掲げて)これが私の『一生懸命に働いた』成果よ」

スピーチの最後は、1998年2月に亡くなった故キム・ギヨン監督への言葉。

「この賞を、私の映画デビュー作(=1971年制作の『火女』)を手掛けたキム・ギヨン監督に捧げます。素晴らしい才能を持った人でした。生きていたら喜んでくれたと思います」

助演男優賞:ダニエル・カルーヤ

受賞ダニエル・カルーヤ 『Judas and the Black Messiah』
ノミネートサシャ・バロン・コーエン 『シカゴ7裁判』
ノミネートレスリー・オドム・Jr. 『あの夜、マイアミで』
ノミネートポール・レイシー 『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』
ノミネートレイキース・スタンフィールド 『Judas and the Black Messiah』
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ダニエル・カルーヤは今回が2度目のノミネートで、初のオスカー獲得。初ノミネートは『ゲット・アウト』(2016年度)の助演男優賞でした。

プレゼンターのローラ・ダーン(前年に『マリッジ・ストーリー』で助演女優賞を受賞)から「今作を演じるにあたり膨大な量のリサーチを行い、見事に役に入っていた」「今作でのお手本は『マルコムX』のデンゼル・ワシントンだったそうですね」と紹介されたダニエルは、オスカー像を受け取って緊張の面持ち。

「神様、感謝します。私がここにいるのは、あなたの導きとご加護のおかげです」

「そして僕に全てを注いでくれた母にも感謝します。僕を工場から出荷できる状態にしてくれました。だから堂々と生きていける。姉、姪を含んだ家族のみんな、愛してます」

会場内にいたお母さん&お姉さんは受賞決定時から感動しまくってる様子が映されていましたが、自慢の息子&弟から感謝の言葉を聞き、目をウルウルさせて感激の表情。

何度も言葉に詰まりながら、共演者をはじめ様々な人たちに感謝の言葉を伝えたダニエル。

「この部屋にいる全員が、やるべきことをやっている。1人では出来ない仕事なのです。誰もがやるべきことをやっています」

「僕は火曜の朝から仕事に戻ります。でも今夜はお祭りだ。今夜は盛り上がろうぜ〜」

急にテンションが上がったダニエルは、アカデミー賞の歴史に残りそうな爆弾発言を放ちます。

「今夜という時間を楽しもう。人生を祝福するんだ。だって、息をするだけで最高じゃないか」

俺の父と母がセッ●スしたのも最高だ。そのおかげで俺がいるんだから」

お姉さんは頭を抱え、お母さんは「このバカ息子は急に何てことを言い出すんだい」という渋い表情で息子を眺める映像が全世界に流されました。

主演女優賞:フランシス・マクドーマンド

受賞フランシス・マクドーマンド 『ノマドランド』
ノミネートヴィオラ・デイヴィス 『マ・レイニーのブラックボトム』
ノミネートアンドラ・デイ 『The United States vs. Billie Holiday』
ノミネートヴァネッサ・カービー 『私というパズル』
ノミネートキャリー・マリガン 『プロミシング・ヤング・ウーマン』
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プレゼンターは前年に『ジュディ 虹の彼方に』で主演女優賞を獲得したレニー・ゼルウィガー。

いつもであれば「前年の主演女優→主演男優賞のプレゼンター」「前年の主演男優→主演女優賞のプレゼンター」を務めるのが恒例なのですが、この年はプレゼンターが入れ替わっていました。

不祥事などで前年の受賞者が出席を辞退した時に代打として他の俳優陣がプレゼンターを務めることはよくあるのですが、単純に入れ替わるのは最近の授賞式だとあまり見ません。

受賞したのは、これが6回目のノミネートで3度目のオスカー獲得となるフランシス・マクドーマンド。これまでの受賞歴は

そして今回、すべて主演女優賞でのオスカー獲得です。

スピーチの冒頭で軽くジョークを放った後、

「私は言葉を持たない。私の声は剣にあり」

と語り始めたフランシス。これはシェイクスピア作の戯曲『マクベス』のセリフの引用だそうです。

「剣というのは私たちの仕事のことです。そして私は仕事が好きです。それを言いたかったの。ありがとう」

主演男優賞:アンソニー・ホプキンス

受賞アンソニー・ホプキンス 『ファーザー』
ノミネートリズ・アーメッド 『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』
ノミネートチャドウィック・ボーズマン 『マ・レイニーのブラックボトム』
ノミネートゲイリー・オールドマン 『Mank/マンク』
ノミネートスティーヴン・ユァン 『ミナリ』
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プレゼンターは、前年に『ジョーカー』で主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス。従来であれば主演女優賞のプレゼンターを務めるところですが、前述したとおり何故か主演男優賞に、そして授賞式の最後に登場となりました。

前年に亡くなったチャドウィック・ボーズマンが受賞最有力とメディアなどで報じられていたこともあり、ラストをドラマティックにしようということで主演男優賞を最後に持ってきたのだろうと思われますが、受賞したのはアンソニー・ホプキンス

しかもアンソニー・ホプキンスは授賞式を欠席していたため、ホアキン・フェニックスがお決まりの「アカデミーが代理で受け取ります」というセリフを告げ、ここで授賞式の放送は終了という、なんともシラけたエンディングとなってしまいました。

まず、アンソニー・ホプキンスが欠席した理由をメディアは「Zoomでのリモート出演をアカデミー側に拒否されたから」と報じています。

ほかのアワードで主流になりつつあるZoomでのリモート参加は認めないなど、独自のルールも話題になったが、アンソニーの代理人が米Indie Wireに語った話によると、アンソニー側は特例でZoomで参加させてほしいと主催者側にお願いしたが、その要求を突っぱねられてしまったのだという。しかし、83歳という高齢で感染リスクも高いことを考えると、“会場もしくは中継地点に絶対に行かなければならない”というルールを強いるのは少々酷な気も。

アンソニー・ホプキンス、アカデミー賞に“不在”のワケは「リモート参加」を拒否されたから:FRONTROW

主演男優賞の受賞が発表された時、アンソニーは故郷のウェールズに滞在しており、現地は朝方の4時。授賞式をテレビ視聴することもなく就寝していたそうです(朝方だから当たり前ですけどね)。

翌日にアンソニーは自身のインスタグラムでコメントを発表。

「おはようございます。故郷のウェールズにいます。83歳でこのアワードを受賞するとは本当に思っていませんでした。アカデミーには感謝しています。ありがとう」

「そしてチャドウィック・ボーズマンに敬意を表したいと思います。彼はあまりに早く去ってしまった」

「そしてすべての人に、ありがとう。本当にこれは予想していませんでした。すごく栄誉なことだと感じています」

従来であれば主要6部門の発表順は「主演男優&主演女優」→「監督賞」→「作品賞」となるのですが、この年は授賞式の演出を担当したスティーブン・ソダーバーグの意向により、かなり早い段階で監督賞が発表され、最後も「作品賞」→「主演女優賞」「主演男優賞」という流れでした。

この順番変更が完全に凶と出てしまい、授賞式に対する評判も芳しくなく、アメリカでの視聴者数は過去最低を記録してしまいました

この順番変更などの演出に対して、放送を担当した米ABCのロブ・ミルズ氏は、授賞式の終了後にメディア取材に応じています。

「大きなリスクを背負いましたし、中には効果がなかったと思われるものもあったかもしれない」

「いつもとは違う、次に何が起こるのか分からないものにできたのはすごく良かったですね。最後の部門(主演男優賞)だけでなく、全体を入れ替えました。いつもだったら脚本賞は終盤の発表ですよね。それから、今回は監督賞も早くに発表しました」

「大切なのは、“いつもと同じだな”という感じではなく、“次はなんだろう?”と思わせることだったんです」

2021年アカデミー賞、なぜ主演男優賞が最後だったのか ─ 受賞者欠席も「リスクは考慮されていた」:THE RIVER

どう釈明したところで大失敗だったことに変わりはありません。

監督賞:クロエ・ジャオ

受賞クロエ・ジャオ 『ノマドランド』
ノミネートトマス・ヴィンターベア 『Druk』
ノミネートデヴィッド・フィンチャー 『Mank/マンク』
ノミネートリー・アイザック・チョン 『ミナリ』
ノミネートエメラルド・フェネル 『プロミシング・ヤング・ウーマン』
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プレゼンターは、前年に『パラサイト 半地下の家族』で監督賞を受賞したポン・ジュノ監督。韓国のシアターからリモート出演で、今年度の受賞者を発表しました。

監督賞を制したのは中国出身のクロエ・ジャオ監督。女性監督としては『ハート・ロッカー』(2009年度)のキャスリン・ビグロー監督以来、史上2人目、さらにアジア人監督としては昨年のポン・ジュノ監督以来、史上2人目、2年連続での受賞となりました。

「最近よく考えていたのは、試練の中をどうやって前進するのか、ということです」

「子供時代に学んだことがあります。中国に住んでいた頃、父とよくゲームをしたんです。中国の古典詩を暗記して、どちらが最後まで言えるかを競うものでした」

「その中で最も印象的だったのは『三字経』という古典詩です」

クロエ監督は「人之初 性本善」という中国詩を披露。

人は生まれた時から本質的に善人である、という意味です」

「子供の頃、この6文字に大きな影響を受け、たまに全く反対のように感じたりしながら、それでも今も信じ続けています」

「世界中どこに行っても、常に人々の優しさと出会ってきました。どんなに困難でも、信念と勇気を持って自身の善良さを持ち続け、お互いの善良さを手放さない、そんな皆さんにこの賞を捧げます」

「皆さんから刺激を受けて、私は前進し続けていくことができるのです。ありがとうございます」

作品賞:『ノマドランド』

受賞『ノマドランド』
ノミネート『ファーザー』
ノミネート 『Judas and the Black Messiah』
ノミネート 『Mank/マンク』
ノミネート 『ミナリ』
ノミネート 『プロミシング・ヤング・ウーマン』
ノミネート 『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』
ノミネート 『シカゴ7裁判』
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今年度は8つの作品がノミネートされた作品賞。受賞したのは『ノマドランド』でした。

監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督、主演女優賞を獲得したフランシス・マクドーマンド、そして関係者がステージに上がり、まずはクロエ監督が謝辞。

続いてスピーチしたのはフランシス・マクドーマンド。

「可能であれば、私たちの映画を最も大きなスクリーンで見てください」

「そして近い将来、あなたの知る全ての人を連れて映画館に行き、劇場の暗い空間で肩を寄せ合い、今夜ここに示されている全ての作品を観て欲しいです」

「この賞を、仲間のウルフに捧げます

そしてフランシスはオオカミのようにワオオオーーーンと遠吠え。クロエ監督も続いて吠えていました。

WOWOWで司会を務めたジョン・カビラ氏は「西部で聴いていたオオカミたちに贈った」「自然へのリスペクトを込めた」と論評していましたが、間違っておりまして…。

「仲間のウルフ」というのは、『ノマドランド』で録音と音響を担当していたサウンドミキサー、マイケル・ウルフ・スナイダー氏の事だったそうです。彼は授賞式の1ヶ月前、2021年3月に死去しています。享年35歳でした。

彼の死の直後、クロエ監督とフランシス・マクドーマンドはそれぞれ声明を発表しています。

クロエ・ジャオ:「『ザ・ライダー』でも『ノマドランド』でも、わたしはテイクが終わるごとにウルフを見ました。わたしは撮影現場ではヘッドフォンを付けなかったので、ウルフはわたしの耳であり、彼に大きく頼っていたのです。彼は幸せそうな笑みを浮かべてうなずいたり、目に涙をためてうなずいたり、時には控えめに『もう一度』という合図を送ってきました」

「これからもずっと、彼を恋しく思うでしょう」

「友よ、向こう側でまた会いましょう」

フランシス・マクドーマンド:「ウルフは私たちの鼓動を、私たちの呼吸一つ一つを録音しました。私にとって、彼こそが『ノマドランド』です」

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最多ノミネートは『Mank/マンク』の10部門。美術賞と撮影賞の2部門でオスカーを獲得しました。最多受賞は『ノマドランド』。6部門にノミネートされたうち、作品賞、監督賞、主演女優賞の3部門を制しました。

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