第93回(2020年度)アカデミー賞、授賞式ハイライト・名珍場面集

ユニオン・ステーションを颯爽と歩くレジーナ・キング

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最近のアカデミー賞で授賞式会場といえば、ロサンゼルス市ハリウッドにあるドルビー・シアターが定番でした。しかし第93回は新型コロナウィルス感染対策として密閉空間を避けるため、ドルビー・シアターから南東に13kmほど離れたユニオン・ステーションが会場となりました。

ユニオン・ステーション(ユニオン駅)は映画スタジオなどではなく、キチンと稼働している現役の鉄道駅。

しかしながら過去に多くの映画作品でロケ地として利用されているそうです。有名どころでは『ダークナイト ライジング』『スピード』『アメリカン・ビューティー』『レインマン』などなど。

授賞式会場は駅構内のロビー。約170名の座席が設けられ、各部門の発表時に当該者及びその関係者が着席し、番組の進行に伴い出席者が入れ替わっていくというシステムが採用されました。

また事前番組は、いつもであれば授賞式会場の近くに設置されたレッドカーペットで開催されるのですが、今回はユニオン・ステーションのパティオ(屋外スペース)で開催されました。

授賞式オープニングは、その事前番組会場(パティオ)から授賞式会場(ロビー)まで、ユニオン・ステーションの構内をオスカー女優レジーナ・キングが颯爽と歩き、その姿をカメラが追うという演出。実にカッコ良かった。

2年前、『ビール・ストリートの恋人たち』で初のオスカー(助演女優賞)を獲得したレジーナ。今回は自身が初めて監督を務めた作品『あの夜、マイアミで』が3部門にノミネートされていました。

オープニングスピーチの冒頭でレジーナは、

「もしミネアポリスでの判決が違ったものになっていたら、私はハイヒールを脱ぎ、ブーツを履いてデモに参加していたかもしれません」

「ハリウッドが説教じみた話をすると、皆さんがリモコンに手を持ちチャンネルを変えたくなるのは分かってます。しかし黒人の息子を持つ母として、多くの人が抱えている恐怖も知っています。それは名声や富によって変わるものではないのです」

と発言。2020年5月25日に発生した、当時警官だったデレク・ショービンが、拘束した黒人男性ジョージ・フロイド氏の頸部を脚で圧迫し、「息ができない」という懇願も無視して殺害した事件に関する裁判で、授賞式の数日前に有罪判決が出されたことに関しての言及です。この事件は「ブラック・ライヴズ・マター」運動が爆発する発端ともなりました。

続いてレジーナは授賞式の新型コロナウィルス感染対策について、アカデミー賞を代表して説明。

「今夜はマスクなし。授賞式を映画の撮影だと思ってください」

「私たちはワクチンの接種やPCR検査を何度も実施し、密になることも避けています。安全に映画を撮影するための規則を全て遵守しています」

「映画の撮影と同じで、撮影中はマスクなし。でもそれ以外ではマスクを着用してください。(会場の人々に向けて)皆さん、いいですね?」

この感染対策はメイン会場となったユニオン・ステーションだけでなく、他のリモート会場でも同様に実施されていたそうです。

今回の授賞式も司会者はおらず、これで3年連続の司会者不在となりました。

レジーナ・キングを司会者と表現した一部メディアもありましたが、その情報は間違い。レジーナはあくまで「最初のプレゼンター」です。

撮影中は妊娠7ヶ月だったエメラルド・フェネル

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そのレジーナ・キングがプレゼンターとして最初に紹介した脚本賞を受賞したのは、女優でもあるエメラルド・フェネル。過去に『アルバート氏の人生』『アンナ・カレーニナ』『リリーのすべて』といったアカデミー賞ノミネート作品に出演しています。

エメラルドは、Netflixで配信されている連続ドラマ『ザ・クラウン』にも出演しているのですが、その撮影を休み、監督デビュー作となった『プロミシング・ヤング・ウーマン』を23日間で制作。撮影期間中は妊娠7ヶ月だったことがプレゼンターのレジーナ・キングからエピソードとして披露されていました。

脚本賞を受賞したエメラルドは、オスカー像を受け取ると感無量の表情でスピーチを開始。

「まさか受賞するとは思っていなかったので、スピーチの準備をしていないのです。スティーブン・ソダーバーグ(=今回の授賞式プロデューサー)、本当にごめんなさい」

「10歳のとき、妄想で受賞スピーチを書いたことがあるのですが、その内容はもう使いものにならないわ」

嬉しさで興奮し始めたエメラルド、初めて手に持ったオスカー像を見つめて

「彼ってこんなにも重く、そして冷たいんですね! ここに置かせてください」

そう言ってオスカー像を台座に置き、スピーチ続行。

「この映画は、世界最高のスタッフが23日間で作りました。大勢の方々のおかげで今ここに立てています」

「(主演を務めた)キャリー(・マリガン)、その才能はもちろんのこと、優しさとユーモアをありがとう」

「そして、撮影終了の数週間後まで誕生を待ってくれた息子へ。本当に助かったわ!」

最後は「私のスピーチ、大丈夫だったかしら」と照れながらスピーチを終えたエメラルドでした。

エメラルドは、女性としては13年ぶりとなる脚本賞の受賞者となりました。

また彼女は監督賞にもノミネートされ、イギリス人女性が監督賞にノミネートされたのは史上初。また監督賞に女性が2人ノミネートされたのも史上初(もう1人は監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督)。アカデミー賞の歴史に残る偉業を複数成し遂げた女性となりました。

急逝した娘さんに捧げる受賞

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国際長編映画賞を受賞したのは、デンマークの作品『アナザーラウンド』。トマス・ヴィンターベア監督がステージに上がり、オスカー像を受け取りました。

「5歳の頃から受賞スピーチを考えていたんです。電車の駅とか、学校とか、トイレでも」

と語り、最初に笑いを取っていました。

『アナザーラウンド』は、「血中アルコール濃度を適度に保つと仕事効率が上がる」という謎の理論を検証する高校教師たちの物語。以前から親交があり、以前の監督作品にも出演してもらっていたマッツ・ミケルセンを主役に迎え、今回の受賞となりました。

「この映画に投資してくれた方々、本当にありがとうございます。4人の酔っ払った男たちの話なんですけどね。子供たちに酒を勧めるような、かなりゴキゲンな男たちなんです」

「すばらしい俳優陣が全力で取り組んでくれました。マッツ・ミケルセンには特に感謝したいです。あなたは最高の貢献をしてくれました。作品と、それから僕の娘のために。決して忘れません」

幾度も笑いを取っていたトマス監督でしたが、真面目な表情に変わってスピーチを続けました。

「僕らが作りたかったのは、人生を祝う映画です。しかし撮影開始の4日目、娘が自動車事故で亡くなりました。携帯電話を見ながら運転していた誰かに命を奪われました。娘が恋しいです」

哀しい事実を伝え、スピーチを中断して泣いてしまったトマス監督。

「撮影開始の2ヶ月前、娘は滞在先のアフリカで今作の脚本を読んでくれて、手紙を送ってくれました。『とても気に入った、ワクワクしている』と。娘も出演する予定だったのです(注:トマス監督の娘さんは、主演マッツ・ミケルセンの娘役として出演する予定でした)」

「きっとここに娘もいて、拍手しながら喜んでくれていると思います。娘のために撮った映画です」

アイダ、奇跡が起きたよ。これを君に捧げるよ

この作品は以前からハリウッドで英語版でのリメイクに関する権利の争奪戦が繰り広げられていました。

授賞式の翌日、レオナルド・ディカプリオの保有する製作会社「アピアン・ウェイ」がリメイク権を落札。マッツ・ミケルセンが演じていた主役をディカプリオ自身が演じる可能性もあると報じられました。

メイクアップ&ヘアスタイリング賞でも史上初の快挙

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メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したのは『マ・レイニーのブラックボトム』のセルジオ・ロペス=リベラ、ミア・ニール、ジャミカ・ウィルソンの3名。このうちミアとジャミカはアフリカ系アメリカ人の女性として史上初となる同部門の受賞者となりました。

受賞が発表された瞬間、悲鳴が起こり大喜びの関係者たち。ステージ上では代表してミアがスピーチをおこないました。

「私とジャミカは今日、未来に向けて新たな扉を開きました」

「いずれトランスジェンダーの黒人女性、アジア人女性、ラテン系や先住民の女性がここに立つはずです。それが異例でも革新的でもなく、普通のことになる日が来ます」

歌曲賞パフォーマンスは全て事前番組で放送

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例年であれば歌曲賞のパフォーマンスはドルビー・シアターにて各賞の発表中に組み込まれているのですが、今回はドルビー・シアターがメイン会場ではなく、他にパフォーマンスをリアルタイム宇で実施できる会場もなかったため、本番前に収録したパフォーマンスを事前番組にて放送するという方策が採られました。

5曲のうち「Husavik」という1曲のみアイスランドで収録されましたが、他の4曲はアカデミー映画博物館のテラスにて収録されました。

映画ファン待望の「アカデミー映画博物館」は、映画の都と呼ばれるロサンゼルス市ハリウッドに建築された新たな映画スポット。当初は2020年12月14日にオープン予定でしたが、新型コロナウィルスの影響により2021年4月30日に延期。さらに延期されて2021年9月30日にオープン予定と発表されています。

アカデミー映画博物館のオープニングを飾る特別展示企画は「宮崎駿」展であることも発表されています。

歌曲賞パフォーマンスに関しては、毎年アカデミー賞の公式動画は公開されないのですが(各アーティストが自身のYouTubeチャンネルで公開することはあります)、今回は珍しく公式動画として公開していました。幾つかリンクを掲載しておきます。

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歌曲賞を受賞したのは、H.E.R.が歌った『ユダ&ブラック・メシア』のテーマ曲、「Fight for You」。

歌曲賞のプレゼンターを務めたゼンデイヤは、H.E.R.の名前を読み上げてからピョンピョンとジャンプして大喜び。友達なのか、大ファンだったのでしょうか。

多くの映画関係者を偲ぶ

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追悼コーナーにはアンジェラ・バセットが登壇し、この1年間で亡くなった映画関係者への追悼メッセージを語りました。新型コロナウィルスの影響もあってか、例年以上に亡くなった方々が多かったように感じます。

スティービー・ワンダーの「As(邦題:永遠の誓い)」が流れる映像で次々と亡くなった映画関係者が映るのですが、曲が速いのと人数が多いのとで、一人一人の映る時間が実に短く、批判も発生したそうです。

有名な俳優では、クリストファー・プラマー(『人生はビギナーズ』で助演男優賞を受賞)、ショーン・コネリー(「007」シリーズの初代ジェームズ・ボンド)、そして今回主演男優賞にノミネートされていたチャドウィック・ボーズマンの写真がありました。ご冥福をお祈りいたします。

グレン・クローズ、まさかの腰振りダンスに場内爆笑

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今回の授賞式で音楽監督を務めたクエストラヴによる「オスカークイズ」という息抜き企画が授賞式の途中で開催されました。内容は、ある楽曲を流し、その曲が「アカデミー賞を受賞した」「ノミネートされた」「ノミネートすらされてない」のどれかを当てるというもの。

コメディアンのリル・レル・ハウリーが場内を巡って解答者を指名。まず最初に指名されたのは、主演女優賞にノミネートされていたアンドラ・デイ。

流された曲はプリンスの代表作「Purple Rain(パープルレイン)」。同名の自伝的映画のテーマ曲。さあどれだ、と解答を迫るリル・レル。

「こんな名曲がノミネートもされてないなら最低よね」

とだけ答えたアンドラ。「確かにね」と苦笑したリル・レルは正解を発表。

「正解は、『ノミネートもされてない』だ。歌曲・編曲賞は受賞したんだけど、歌曲賞にはノミネートされてないんだよ」

これを受けてアンドラ、

「何それ、マイク返すわ」

と返答。苦笑するしかない進行役のリル・レル、「ちょっと問題発言があったね」。

続いての解答者は、見事に助演男優賞を受賞した「爆弾発言男」のダニエル・カルーヤ。旧知の仲らしきリル・レルとダニエル。「ところでお前、何か受賞したの?」

「ああ、今夜はめちゃくちゃ騒ぐよ」と笑顔のダニエル。

流された曲はドナ・サマーの「Last Dance」。1978年の映画『イッツ・フライデー』のテーマ曲。かなり昔の曲なので考え込むダニエル。すかさずリル・レルがツッコミ。

「おい、グレン・クローズが『まだ早すぎる、座りなさい』と言ってるぞ」

「ノミネート」と解答したダニエル。リル・レルが正解を発表します。

「いや、ドナ・サマーは受賞してるんだ。グレン・クローズは正しかったな。お前には早すぎた」

最後の解答者としてリル・レルが選んだのは、グレン・クローズ。流されたのは「Da Butt」という楽曲。1988年にリリースされ、スパイク・リー監督作品『スクール・デイズ』で使用されていました。

突然「曲を止めて」とクエストラヴに伝えたリル・レル。「彼女がこの曲を知ってるわけないよ」

「ちょっと待って。知ってるわよ。『Da Butt』でしょ。ワシントンDCのゴーゴーバンド、EUの曲よ。シュガーベアが歌ってて、DMVっていうバンドもいたわね」

「覚えてるわよ、ちょっと待ってね。ああそう、スパイク・リーが『スクール・デイズ』のために用意した曲よ」

「オスカーの人たちは見落としたのよ。ノミネートすらされてないから受賞もしてない。最低の悲劇よね」

知らないどころか、あまりに知り過ぎてたグレン。場内に笑いが起きる一方で、ぶったまげるリル・レル。

「まさかグレンが『Da Butt』を知ってるとは…驚いたよ。でも、さすがに『Da Butt ダンス』は知らないでしょ?」

知ってるわよ」と即答したグレンは席から立ち、再び流れ始めた曲に合わせて腰を大きく振ってノリノリのダンス。リル・レルだけでなく会場は大爆笑、そして拍手喝采。この年のアカデミー賞で最も盛り上がった瞬間でした。

「すげえな、黒人が踊ってるみたいな、すごいお尻の動きだったね」と感服するしかないリル・レル。

大女優グレン・クローズは照れつつも満足そうに笑っていました。

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最多ノミネートは『Mank/マンク』の10部門。美術賞と撮影賞の2部門でオスカーを獲得しました。最多受賞は『ノマドランド』。6部門にノミネートされたうち、作品賞、監督賞、主演女優賞の3部門を制しました。

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新型コロナウィルス対策のため会場がドルビー・シアターからユニオン駅に変更されるなど規模を縮小し、世界各国とリモート中継で繋ぎ、劇場公開されていないネット配信作品も対象とするなど特例が適用されました。

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